浜田麻里から学ぶ“思考の断捨離” 10年近く同じ朝食、家中をスマートホーム化「小さな決断を減らす」
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超人的なハイトーンボイスで音楽シーンを牽引し続ける歌手の浜田麻里さん(64)。常に100%の創造性を発揮し、音楽制作と向き合う裏側には、徹底されたセルフマネジメントの秘密がありました。あふれ出るアイデアや葛藤に脳のリソースを集中させるため、浜田さんが行き着いたのは、日常の「小さな決断」を極限まで削ぎ落とすストイックなライフスタイル。その驚くべき日常の裏側と、妥協なきクリエーションの源泉について聞きました。(井利 萌弥)
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――本作を通してどんな現在地が見えてきましたか。
「今回の新曲を作りながら改めて感じたのは、自分の中から出てくる創造性を、どこまで拾い上げて、何を作品として残すのかということでした。
集中すると、アイディアが尽きないくらい出てくることがあるんです。でも、出てきたものを全部並べれば作品になるわけではない。表現者として何を選び、どこまで突き詰めて、どう着地させるのか。その判断には、今でも毎回多少の葛藤があります。
長くやってきて、国内外を問わず一緒に仕事をする仲間も増えましたし、自分のアイディアを作品として形にしていく精度も高まり、作品としての完成度も上がってきたと感じます。
けれど、“ここまで来たから、もうこれでいい”と思うことはないんですよね。むしろ、できることや選択肢が増えた今の方が、何をやらないか、何を残すかという判断は難しくなっている気がします。
だから今の現在地というのは、何か完成形に近づいたというより、まだ自分の中に、自分でも知らない部分があるんじゃないかと感じながら、その先を探しているところなのかもしれません。それを次はどうやって探していこうか、どうすればそこを揺り動かせるのか、と、少し客観的に自分を見ているもう一人の自分が、面白がっているところはありますね。
制作中は、創造性の精霊が“こっちだ、あっちだ”と囁いているような感覚になることもあって(笑)。その中で、ある瞬間に“これだ”という着地点がパッと見える。それを形にしていくのが、私にとっての音楽制作なんだと思います」
――日頃からずっと音楽のことを考えているんですね。普段はどんな生活を送っていますか?
「いつも音楽のことだけを考えている、というわけではないんです。制作期間に入るとかなりストイックになりますし、次々に捌いていかなければならない事柄も増えますけれど、実際には音楽そのもの以外にも、作品を形にして世の中に届けるまでに、確認したり、判断したり、調整したりしなければならないことが本当に多いんですよね。
私は完全セルフプロデュース型なので、そういうことまで含めると、いつも時間が足りないと感じています。むしろ、純粋に音楽だけに集中できる時間を確保するのが難しいくらいで、皆さんが想像されるほど多くないのかもしれません。
だから日常生活では、考えなくてもいいことについては、なるべく小さな決断を減らすようになりました。
食事は基本的に自炊していますし、料理は若い頃から得意な方なんです。でも朝食だけは、もう10年近くずっと同じ。オーツ麦、ナッツ、ブルーベリー、自家製ヨーグルト、コーヒー。最小限に必要な栄養を考えた結果でもあるんですけど、それ以上に、朝から“今日は何を食べよう”と考える必要がないのが楽なんですね。
本当に些細なことでも、決断が積み重なると、その分だけ判断力や集中力が少しずつ奪われていく感覚があるんです。だから、使わなくていいところではなるべく使わず、本当に必要なことのために頭の余力を残しておきたいんですよね」
――思考のほとんどを音楽のために使いたいということでしょうか?
「いや、そう単純でもないんです。むしろ、音楽に集中するためには、その周辺のことまで自分で把握して動かざるを得なかった、という方が近いかもしれません。
最初から何もかも自分でやろうと思っていたわけではないんです。ただ、長く仕事をしていく中で、自分で状況を把握して、決断して動かなければ進まない場面が積み重なって、結果として今のような仕事の形になっていったんだと思います。最終的には私自身が全部の責任者、ということで(笑)。
一時期は、本当にたった一人でほとんどのことをやっていました。アメリカでのレコーディングも比較的早い時期から始めていて、海外制作の現場では、自分が決断して動かなければ流されてしまうし、何も始まらないとわかってきました。90年代末頃からは、自分で制作スケジュールを組んで、海外のミュージシャンやエンジニアの日程を押さえ、ギャラの交渉をして、飛行機のチケットを取って、ホテルを予約して、何度も往復する。そういうこともずっと一人でやっていました。
もともと15歳頃からスタジオシンガーとして仕事をしていて、20歳でデビューするまでの間にも、音楽業界の現場をいろいろな角度から見る機会がありました。表に立つことだけではなく、音楽が仕事として形になっていく裏側の流れはもちろん、現場ではさまざまな立場や思惑が交錯し、たくさんの人がそれぞれどんな意識で仕事をし、その世界が動いているのかというところまで、かなり早い時期から客観的に見ていたんだと思います。デビュー後は、さらにそういう場面を見ることが増えたことは言うまでもありません。
そういう経験を43年の中で積み重ねてきた結果、まず自分で状況を把握して、自分で考えて動くことが当たり前になっていったんでしょうね。だから、“思考のほとんどを音楽のために使いたい”というよりは、本当は音楽に使える時間と頭の余力を少しでも確保したい。そのために、考えなくてもいいことはなるべく減らしたい、という方が近いと思います」
――朝ご飯以外にも、考えるのをやめていることはありますか?
「家はかなりスマートホーム化しています。照明やブラインド、掃除機など、あらかじめ決められるものはなるべくスケジュールを設定しておいて、勝手に動いてもらう。植物のライトも、何時につけて何時に消すというところまで全部設定しています。便利だからということもありますけど、そこに頭を使わないで済むように。毎日同じことをいちいち選んだり、決めたりする必要がないようにしているんです。
でも考えてみると、これは最近始まったことでもないんです。昔、全国ツアーで短期間に40カ所ほどを回っていた頃、会場に入るとみんなそれぞれデリバリーを頼むんですが、私は必ず親子丼。そこに選択は要らないんです。ツアーのたびに、ずっと親子丼(笑)。ライブ当日は、“今日は何を食べよう”なんて考えるのが無駄だと思っていました。
もともとそういう性質なのかもしれません(笑)。ただただ集中したいんです。その日にやり遂げると決めた一つのことがまず中心にあって、その他の日常は、その周りについてくる。自分の中では、昔からそんな感覚なんだと思います」
――日常での思考をとことん最小限にしているんですね。
「小さい決断を、とにかく減らしたいんです。本当に考えるべきことのために、脳の余力をできる限り保っておきたいんですね。
もし私が男性で、今のように服装まで見られる仕事でなければ、自分に合う同じ型の服を何着も揃えて、毎日同じ格好をしていたと思います(笑)」
