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鈴木京香 インタビューに感極まった主演映画との運命的な出会い 息子の闘病を支えた母親役「私にできるだろうか…」悩んだ時も

2025.05.14
鈴木京香 インタビューに感極まった主演映画との運命的な出会い 息子の闘病を支えた母親役「私にできるだろうか…」悩んだ時も

高潔で艶やか。このアンビバレンスな魅力を持った鈴木京香さん(56)は「女優」のイメージをそのまま体現したような人だ。そんな彼女が女優業を体調不良でお休みしていたが、昨年復帰。主演映画「栄光のバックホーム」(監督秋山純、11月公開予定)の撮影を終えた。脳腫瘍のため28歳で他界したプロ野球選手、横田慎太郎さんの闘病を支えた母親役。これまで多くの難役を演じてきた中、「私にできるだろうか…」と悩んだ時もあったという。一人の女性として全身全霊で「女優」をやり遂げる思いと、作品との運命的な出会い、そしてインタビュー中に感極まった瞬間とは…。(中村 綾佳)

 「凄く不思議なご縁を感じています。当時、私も病気の療養中だったものですから。横田慎太郎さんの存在を知って、こんなにも心の強い人がいたなんて…と胸を打たれたんです」


 2023年春に体調を崩して女優などの仕事を全て降板。療養中の自宅のテレビで偶然、元阪神タイガースの横田さんの訃報に触れた。普段は「野球をあまり見ない」が、横田さんが引退試合で見せたバックホーム映像にくぎ付けになったという。


 「こんな奇跡って本当に起きるんだ」。その姿に心が震えるほどの衝撃を受けた。でもすぐに「もっと早く彼のことを知りたかったな」とも思ったという。

「というのも、彼のことを一日でも早く知っていたら、もっと強い気持ちで、あの日々を乗り越えられたと思うんです。そのくらい私を励ましてくれた存在でしたから、彼のことをたくさんの人に知ってもらいたいと心から思ったんです」


 その後、出演依頼が舞い込んだ。「あの時の彼だ!」。女優復帰を発表した直後の昨年3月。運命の引き合わせに胸が高鳴った。演じる役柄は横田さんを支え続けた母・まなみさん。脳腫瘍と分かるとすぐに仕事をやめ、片時もそばを離れず看病を続け、絶望の淵にいた愛息を明るく強く笑顔で励まし続けた。


 「横田さんは、まなみさんという母親がいたからこそ強く育ったんだと思うんです。私は病気明けで不安もありましたが、原作も読んでこの役は絶対にやりたいと覚悟を持って引き受けました」


 しかし、一方で「私には子供がいないので、母親じゃないと分からない感情があるかもしれない。まなみさんの素晴らしさをちゃんと表現できるだろうか」との思いもあったという。


 撮影に臨んだのは昨年夏。記録的な酷暑で復帰間もない京香さんにとって厳しい環境だった。乗り切ることができたのはダブル主演の横田さん役、松谷鷹也さん(31)の存在。炎天下や大雨のもと野球に打ち込む姿を見守り、女優として新たな感情が芽生えた。


 「わが子は目に入れても痛くないと言いますが、今までは大げさだなあと思っていました。でも本当にその通りなんだなって。これまでも母親役はありましたが、初めて感じるものでした」


 そんな彼女の演技を見たまなみさんは、取材に「京香さんの心のたくましさや優しさが垣間見えて、私たち家族はつらいことだけではなく、息子を囲んだ幸せな日々もいっぱいあったのだと表現してくださった」と感謝の思いを語った。


 その言葉に京香さんは「私こそ横田さんにとても励まされたのに…。作品と出合えたこと、本当に感謝しています。この物語をたくさんの人に知ってもらいたいという思いで精いっぱい演じました」と感極まった。


 インタビュー終了後。駆けつけていた横田さん役の松谷さんを見つけると、頬を緩ませ「こっちこっち」と気さくに手招きしていた。久しぶりの“親子再会”を満面の笑みで喜んだ。その姿は母親そのものだった。

(撮影・河野 光希) ※ニットベスト、スカート:ファビアナフィリッピ(アオイ)
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